私の中のデジタルツインとは

2020年12月10日

 そもそも人はリアルとヴァーチャルの世界を行き来して生きている。今、この瞬間の行動はリアル(現実)である。過去の時点では辛い経験も時間が経つと楽しい、懐かしい思い出になるとすれば、それはリアルでない。リアルでないならばヴァーチャルである。 

人の経験はアナログツインだ

 人はリアルの体験を時とともに変容させ昇華させて「経験」と呼でいる。
そうすると我々人間はリアルとヴァーチャルの2つ世界を無意識に行き来していることになる。これはまさしくアナログツインではないかと気づいた。そこで自分の過去を振り返ってみた。

7つの経験知という資産

  1. 典型的な中小企業主
    金型屋の親から将来社長になるためには、学校のテストで一番を取るために勉強する時間があったなら成績は落第しない程度で余った時間は友達と遊べと言われて育った。従業員は家族だから大切にし、残業で腹をすかしていたら先に皆に食べさせて自分は最後にしろなどといろいろな教訓を聞いてきた。
  2. 起業家(アントレプレナー)
    35才の時に親から独立して友達を集めてコンピュータソフトの会社CIMXを作った。その時の合言葉が「アップルはガレージからCIMXは工場現場から」であった。
  3. 叩き上げの苦労人
    42才の時バブル崩壊の影響を受けて父が倒れ10億円の借金の連帯保証人件返済のために金型メーカー中島工機の社長になった。ドラマの半沢直樹なんて甘いと断言できるほどの銀行の貸し剥しを経験して見事に中小企業の町工場を10年掛けて再建した。
  4. 東大との産学連携コンソーシアム(GUTP)の創立メンバー
    再建した金型工場での自分の役割は終わったと思いTDKに売却してインターネットのビジネスに飛び込んだ。この世界は開発が命であることは分かっていた。しかし中小企業のCIMXにそんな最先端の技術を持った者などいなし来てもくれない。そこで東京大学のインターネットの専門家の江崎浩東大工学部教授と一緒に東京大学グリーンICTプロジェクト(GUTP)を立ち上げ今日に至っている。
  5. 誰よりも失敗経験の持ち主
    いっぱい失敗してきた。昔風に言えば体中に刀傷だらけである。億単位で失敗した経験も2度ある。1度目は経産省のデジタルマイスタープロジェクトでの開発の失敗。2度目はアメリカ進出の失敗。どちらもデジタルトランスフォーメーションの前哨戦のようなものでその時の経験があったからこそ今がある。
    さらに講演では時間の都合で割愛したものが2つある。
  6. 100年の工場の歴史を知っている数少ない人
    父親が今生きていれば103才である。父は茨木県の水飲み百姓の生まれで高等小学校を出てすぐ売られるように墨田区の工場に丁稚奉公に出された苦労人である。年も生い立ちも性格がせっかちな点も田中角栄元総理と似ていた。幼い頃から父に連れられて工場に行きベルト駆動で動く旋盤を眺めていた。工場というものを自分自身の目で見たのは60数年分であるが、父から聞かされてきた分も合わせると100年近い。この長い間の機械工場の移り変わりの姿が瞼に浮かぶ。本や映像からではあの油の匂いや火傷をする切子が飛んでくる音は分からないが私は身をもって知っている数少ない人の一人である。
  7. 文化芸能の世界を味わっている
    母は没落士族のお嬢さん育ちであった。どうして二人が夫婦になったのかと子どもから見ても思う正反対のタイプであった。子供のための情操教育と称して帝国劇場や歌舞伎座に正装させられてよく連れて行ってもらった。今思うと子どもの私をだしにして自分が行きたかったのだろう。この習慣は成人した後も残り今でも折に触れてはいろいろなジャンルの舞台に通っている。

STEAM教育の先人

 長々と私の経験を話してきたが、こうしてみると今流行りのSTEAM教育( Science(科学)、 Technology(技術)、 Engineering(工学)、Art(芸術)、Mathematics(数学))を学校に通わず独学してきたような人生であった。

アナログツインからデジタルツインへ

 人生で無意識(アナログ)に身につけたリアルとヴァーチャルを行き来する手法すなわち暗黙知を表出することでデジタルツインの世界に容易に入っていけると思った。

自分の中のデジタルツインとは

 リアルとヴァーチャルは反対の関係でなく双方が繋がりをもった連関した関係である。
 子どもの頃の学校と家庭での教育と社会人になってからの仕事とプライベートな経験すべてが織り交ざった連関したものである。これに人の外部にあるデジタルデータ(言語や音、映像)を付け加えればデジタルツインの世界の住人になれる。自分の中でアナログツインとデジタルツインを置き換えるのではなく双方連関した関係にすることであると思っている。

HX(ヒューマントランスフォーメーション)の時代へ

 一人一人の体の中でアナログツインとデジタルツインが統合されるとHX(ヒューマントランスフォーメーション)となる。これを別の言い方にするとデジタルネイティブという。人類は人から人への直接的な伝授と体系化された知識を書物から得て自分の経験の中に生かしてきた。これからはデータからの知識いわゆるAIを利用する人類史上経験をしたことない時代に突入している。時代が人を変えるのか人が時代を変えるのか分からないがきっと相互に影響し合って社会がさらに変容していくのであろう。
 それを積極的に取り組むのか拒絶し立ち止まるのかは各人の決断に任せられた時代とも言える。
 さあ、これを読んだ皆さんはどうされるでしょうか。
 私は Thinking together  Challenge together でいこうと思っています。

中島 高英